輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

男の肩書奇譚

※2011年6月17日執筆

 

若い時分、自分は某外資系企業を退職し――と書くと、「時分」と「自分」が音的にも字面的にも重なって気持ち悪いので書き直すと、若い時分、不肖伊達は某外資系企業を退職し、八王子の山奥に転居して2年間ほどブラブラしていた時期があった。その2年間は極度にヒマであったため基本的には市営図書館に入り浸り、本ばかり読んでいた。それ以外の時間は秋刀魚を焼いて食べたり(安いですしね)、拾ってきた猫の額や背中を終始なでていた記憶しかない。

入り浸っていた市営図書館で自分は生涯初めて、能動的しかし独学的に、熱心に学問をしたわけだが、その当時読んでいた本の一つが、ホンカツこと本多勝一氏の一連の著作だった。今ではその内容のすべてを忘却の川に流してしまったが、一つだけ覚えているのは「国際マス釣り場」の話だ。

ご存じの方も多いと思うがその話のあらすじを150字以内で述べると、「山奥のマス釣り場。その名称のアタマにわざわざ『国際』と付けるのは貧困なる精神の現れである。何が国際じゃぼけ、なんの意味も実態もないやんけ。国際つまりはインタナショナルっちゅう言葉で『自分を大きく見せたい』と思う輩に、ロクなヤツはいない。読者諸君も向後そういった誘惑に駆られぬよう注意されたし」(147字)ということになる。

ホンカツ氏の教えは、これと『日本語の作文技術』のほかはすべて忘却の川に流してしまった自分だが、「国際マス釣り場」の話だけは妙に覚えていて、爾来その教えを忠実に守っているつもりだ。

しかし……と、今にして思う。「輸入中古車研究家」という自分の肩書は、いかにも弱い。

や、弱いっつーか貧乏臭いっつーか、3回ぐらい輪廻転生しないと絶対COTY選考委員になれないよねというか、つまりは「大きな存在でない」「偉くない」ニュアンスに満ちている気がするのだ。そのニュアンスこそが、自分の今日の窮状の元凶である気がしてならない。

ということで自分は開業1カ月にして「輸入中古車研究家」のカンバンを下ろすことを決めた。

しかし次の肩書をまだ決めていないので、至急これを決定せんければならぬ。

「国際中古車研究家」
どうだろうか。ちょっとビッグなニュアンスは出てきたが、なんだか「ロシアとかに輸出するポンコツ日本製中古車専門のジャーナリスト」的な語感もある。これはダメだろう。

「国際中古車ジャーナリスト」
カタカナを使うことで今っぽさとメジャー感は出たような気もするが、これまたロシアへの輸出感というか、せいぜいその守備範囲がアフリカにまで広がっただけなニュアンスだ。

「インターナショナル・セカンドハンドカー・ジャーナリスト」
英訳すればいいというものではない。

「死にかけ体験4回・輸入中古車評論家」
もはや何だかよくわからない。そもそも自分は特に死にかけたことなどない。

「輸入中古車ヒョウンカ」
軽妙で親しみやすい感じは出るが、やや軽すぎるだろう。こんなに軽くては世間からナメられ、巨大掲示板で馬鹿にされてしまいそうだ。そもそも1文字抜けている。

そうこう考えてみると、なかなか適切な肩書がないことに気づく。わかりやすく親しみやすく、それでいてビッグでインターナショナルな男の香りがする、肩書き。

仕方がないので前言を撤回し、自分はもうしばらく「輸入中古車研究家」を名乗ることにしよう。

しかしいつの日か、「国際マス釣り場」の如きキャッチーかつビッグな肩書に変えるつもりではあるので、皆様においては刮目して待たれたい。