輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

デルタ インテグラーレと男道

※2012年5月15日執筆

 

不肖伊達、率直に言って悩んでいる。カリスマ中年無職ゆえの金の無さ、精力減退、老眼問題等ではない。いやそれら悩みがないとは言わぬが、さしあたっては違う。ランチア デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡという長い名前のイタリー輸入中古車を、買うべきか否かということである。


それは昔からの「夢」であった。MJ参謀長らが「男の夢」として挙げるふぇらーりにはとんと興味が持てぬ自分だが、青年期、デルタHFインテグラーレの最終ロットが登場した頃、自分は雷に打たれたがごとき思いに至った。

「じ、自分はコレに乗るために生まれてきたのだ!」

今にして思えばそれは青年特有の「強すぎる思い込み」だったわけだが、当時はそのように思ったのだ。

しかし実際問題として金はなかった。ググらず記憶でテキトーに書くが、最終ロット「コレツィオーネ」新車が五百ウン十万円? 最終ちょい前「エボルツィオーネⅡ」の中古でも当時四百ウン十万円? そのあたりの価格や相場であったと記憶している。そんな金子が青年・伊達にあるはずがなく、ついでに言えば中年・伊達にだってない。

しかし今、デルタHFインテグラーレ後期型の中古車相場はついに下がった。長らく「良いエボⅡも悪いエボⅡも350万円」という、まるで一時期の「カウンタックはどれでも1200万円!」みたいな相場が続いていたが、昨今はそれがざっくり100万円下がっている。「エボⅡ=250万円」というのが今、わたしの勘ピュータが導き出した平均価格だ。

 

ならば、買える。

いやそんな金子は相変わらずないのだが、家中の貯金箱を破壊し尽くし、何本かのエレキギターを質草にすれば、頭金ぐらいは用意できそうだ。後は男の60回払いか。

本当の問題は「で、買ってどうすんの?」ということである。

今、デルタHFインテグラーレの中古車とは、速いか? ……速かないだろう。つーかむしろ遅く感じるかもしれない。ボディはどうか? ……たぶんユルユルだろう。下手をすれば中古アルファ以上にユルユル。それが、中古ランチアというものだ(知らんけど、たぶん)。壊れるか? ……おそらくはしばしば壊れるのだろう。わたしの「不敗伝説」もついに終焉である。夏場、路肩でJAFの救援を待つ自分の姿をありありとイメージすることができる。明確なイメージは、たいていの場合実現するものだ。

そんなクルマを買って、わたしはどうしようというのだ? 何のために買うのだ?

それはただただ、「夢の実現」と「伊達」のためである。伊達っつっても苗字じゃないすよ、「粋」とか「洒落」とかの方面の「伊達」のことすよ。……それ“だけ”のために、わたしは貯金箱を破壊し尽くし、そして宝物のエレキギターを質に入れるべきなのか。無論、現在2台分契約している駐車場は1台分を解約し、同時にアルファGTVとSLKは売り払う。そうでもしないとデルタHFの購入費用も維持費用も、おそらくは工面できまい。

夢と現実。伊達と実益。未知なるものへの飛翔と既知の安定。男は、その一度限りの人生においてそこをどうとらえ、どう選択・行動していくべきなのか。

輪廻転生っつーのも「ない話ではない」と個人的には思う不肖伊達であるが、前世の記憶がまるでないということは、つまりは人生は一度きりっつーことである。そう確信したうえで悔いなき行動をとるのが、男の必勝の道。……そんなことは、理屈ではわかっている。しかしそれを実際のアクションとしてできるかどうかは、また別の問題である。

ぐぬぬ……。