輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

キラキラ問題

※2011年12月21日執筆

 

どちらかと言えばフェラーリよりも「生活に根差した実用四輪車」を好む自分としては、『NEW NEXT NIPPON NORIMONO』を標榜する新型軽自動車「ホンダN BOX」に注目および期待しないわけにはいかない。「現代の2CV」と呼びたい新たな名車の誕生を、もしかしたら目撃できるかもしれないのだから。

 

ということで過日、自分は西永福の牛肉料理店にチャラチャラと午飯を食いに行くついでにディーラーに立ち寄り、件の「新しいニッポンの乗り物」をチラ見してきた。


……結論として、見なければ良かった。NEW NEXT NIPPON NORIMONOのハードウェア的実力のほどはまったく知らぬが、少なくともデザインに関しては「ニッポン実用車の夜明けは遠い!」と痛感せざるを得ず、自分は都合1升ほどの悔し涙を流した。

余計な「キラキラ」がとにかく多すぎるのだ。

「それはお前が見たのが『カスタム』だったからだろ? 素のN BOXならそんなにキラキラしてないよ」
そう指摘する人もいるだろう。しかし、素のモデルであったとしても本質は同じことだ。余計なキラキラ成分が勝ちすぎているのである。


無論、上写真の素のグレードは「カスタム」よりは幾分マシというかずいぶんマシだが、それでも、キラキラ過剰であることに変わりはない。ここで言う「キラキラ」とは何かといえば、メッキで文字どおりキラキラしているフロントグリルだけでなく、要するに「豪華に見せたい」という大衆的情念に基づく装飾すべてを指している。

軽自動車、というか実用大衆車を「豪華」に見せて、一体どうしようというのか? 何がしたいのだ? 勝負すべきポイントは本当にそこなのか?

何というかこう、シンプルで美味しい焼き魚のような精神でデザインすれば、実用車というのはかなり洒落たモノに仕上がるはずなのにと、自分などは愚考する。だがどうも世の中そうはしてくれないらしい。

N BOXに限った話ではないが、3DKの建売住宅にシャンデリアを吊るすがごとき、木賃宿の中でタキシードを着るがごとき「滑稽なるゴージャス」が今、本邦を跋扈している。無論、自分は軽自動車を「建売住宅」「木賃宿」に見立てて愚弄したいわけではない。冒頭で記したとおり、生活に根差すクルマとしての軽自動車全般に対して自分は敬意を抱いているつもりだ。自分が愚弄しているのは、「上質=キラキラ」という昭和の価値観を(そろそろ)2012年の今、疑うことなく出してきたデザイナーの見識についてである。

 

ならば、N BOXは本来どんなデザインであるべきだったか? そんなことは、自分は知らぬ。町の自動車愛好家に過ぎぬ自分にそんな「解答」など出せるはずがない。関係ないが、国家の経済政策についても大企業の経営戦略に関しても自分は語れぬ。いい事が起こるようにただ願うだけさ(←copyright忌野清志郎先生)。


しかし一つだけ思うというか願うのは、「軽自動車あるいは実用小型車でしか実現できない何らかの『美』を、自動車メーカーには発明していただきたい」ということだ。

それは、自分が愚考するに下写真の初代パンダや初代トゥインゴの精神を現代に止揚したものとなるはずだが、無論、そんな素人考えを圧倒的に凌駕し覆す何らかの「新しい美」を、ニッポンの自動車メーカーが発明してくれることを、輸入車びいきである自分でさえも大いに期待している。昭和のセルフコピーはもうたくさんだ。