輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

NAロードスター、なぜわざわざ宮崎まで買いに行った?

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 モロモロ考えるところあって96年式NAロードスターを購入した輸入中古車評論家の不肖伊達である。で、3回にわたって糞の役にも立たない観念論を述べてきたが、今回からはいよいよ具象である。まずは「なぜ、わざわざ宮崎県まで買いに行ったのか?」ということについて。東京じゃダメなんでしょうか?(←蓮舫風)

 

……まぁこれについての詳細は、実は近日公開予定のカーセンサーnetにすでに入稿しちゃってまして、それと丸カブりした内容を書くわけにもいきませんので、こちらのほうではちょっとざっくりした内容になるかもしれません。

 

で、結論から申し上げて買ったのはこの個体。

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画像は、このNAがまだ売り物だったときのカーセンサーnet画面のキャプチャー。NAの中古車平均価格が現在50万円ぐらいなので、98.3万円というのはけっこう高い。「全国最高値」ではなかったが、「最高値に近いグループ」であったことは間違いない。

 

これ以外にも関東近郊に「2万km台のVスペシャル」とか「5万km台のSRリミテッド」とかいろいろあったのだが、それらはどうもピンとこなかったのだ、伊達心眼流的に。

 

今回、わたくし独自の中古車選別テクである「伊達心眼流選術」を具体的にどのように駆使したかについては、申し訳ないが冒頭で触れた近日公開予定のカーセンサーnet記事(前後編2回)をご覧いただきたい。そこに、わたくしのテクがあますことなく開陳されている。

 

で、なぜこの宮崎モノにはピンときたかというと、ポイントはいくつかある。まずは販売店の「屋号」だ。

 

わたしがこのNAを買ったのは宮崎県の「松元エンジニアリング」というお店さんなのだが、その字面をよく眺めてみていただきたい。念のためもう一度、太字で記載してみよう。

 

松元エンジニアリング。

 

……なんとクリスプかつシャープな、そして端的で言い訳がましくない、虚飾を排した、硬派きわまりない屋号だろうか。「知られざる実力者」あるいは「極度の機械オタク」の香りがする。まずはそこに、何かを感じた。

 

次にその物件の詳細をカーセンサーnetで見た。……どうやら松元エンジニアリングの社長氏は「極度の機械オタク」のようだ。

 

中古車販売店が陳列時に行う整備というのは、基本的に「ある程度」なのが普通だ。「まぁ車検はフツーに通るはずですよ。それ以上のことは追ってご相談しまひょ」という感じなのだ。もしくは陳列時はまったくのノーメンテで、買い手が決まってから初めて「納車整備」をするという場合も多い。それらは別に悪いことではなく、大半の販売店で普通に行われていることだ。

 

しかし松元エンジニアリングは違った。完全な自動車変態だった。

 

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買い手が付くかどうかまだまったくわからない段階なのにブッシュを全取っ替えし、ショックアブソーバーも新品を入れ、リアのスクリーンも新品に交換し、ほんのちょっとのキズがあるということでフロントウインドウも新品に替え、頼まれてもいないのに新品バッテリーに交換し、そして売れてもいないのに車検を取得した。

 

…………馬鹿なのだろうか?

 

いやいやそんなことを言っちゃいけませんな! 馬鹿は馬鹿でも愛すべきクルマ馬鹿であり、サイコーの自動車変態。そんな人物像が、カーセンサーnetの詳細画面からは浮かび上がってくる。

 

わたくしはすでに松元エンジニアリングのまだ見ぬ代表氏に興味津々だった。この変態に、ぜひ一度会ってみたい。そして変態が仕上げたロードスターを、ぜひこの目で見てみたい。

 

そう思ったわたしは、同店に電話を入れてみた。もちろん電話だけですべてがわかるはずもないが、なんとなく声やしゃべり方を聞き、鼻持ちならない感じだったりうさん臭い人物かな? と感じた場合はそこでやめにして、ほかのロードスターを探すことにしようと思ったのだ。

 

プルルルッと電話するわたくし。受話器を上げる自動車変態。そして声が聴こえてきた。

 

「はい…松元エンジニアリングです」

 

わたしは直観した。「こ、この人はタイプCだ!!!」と。

 

説明しよう。

 

中古車販売店にもいろいろなタイプというかジャンルがあるが、優良なエンジニアリング系(モータース系)販売店の場合、代表者の人物像はおおむね以下3タイプに分けることができる。

 

■タイプA:頑固オヤジ系

このなかでもガミガミ系と物静か系に分かれるが、とにかくどちらもこの道ウン十年のキャリアと、それに見合うプライドを心に秘めた技術者。不遜な客は、ガミガミ系は「お前さんに売るモンはねえからけえってくれ!」と追い返し、物静か系は「……お引き取り願えますか?」とソフトに、しかし断固として言い渡す。

 

■タイプB:ハイブリッド系

技術者として十分な魂と知識、経験を有する人物ではあるが、同時に今どきのマーケティングマインドも持ち合わせ、技術とビジネスとを上手に結びつけているやり手。自社工場は、工場というよりも「ファクトリー」「アトリエ」といった雰囲気。studieさんみたいな感じといえばいいだろうか。

 

■タイプC:機械いじり没頭系

決して商魂がないわけでも嫌儲なわけでもないのだが、それ以上にどうしても「分解整備」や「故障原因の追求」に没頭してしまう性分で、そしてそこに無上の喜びを感じてしまうタイプ。比較的無口で「学究の徒」的な雰囲気があるタイプC-1と、悪い人ではないのだがエキセントリックでキチガイ博士っぽいタイプC-2に分類される。

 

……そして、わたしからの電話に「はい…松元エンジニアリングです」と出た代表氏は、まさに「タイプC-1」丸出しの声だったのだ。いやもちろん声だけでその人物のすべてを知ることなどできはしないが、わたくしはその時点で「松元代表=タイプC-1説」にかなりの自信を持った。

 

こうなると、あとはもうお決まりのパターンである。

 

電話口で「じゃ、○日に見に行きますね」と告げ、そして貯まっていたマイルで宮崎ブーゲンビリア空港に飛ぶ。格安レンタカーを駆って松元エンジニアリングに到着し、松元崇博代表のご尊顔を拝見する。……想像どおりの、いや想像以上にいい人丸出しな人物(タイプC-1)で、工場内のモロモロもビッとしている。で、肝心のNAロードスターも想像どおりビッとしている。いろいろな説明を聞きながら細部を拝見し、そしてちょいと試乗させていただき、「はい、じゃ買わせていただきます!」と告げる。

 

ただそれだけのことだ。

 

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今回、宮崎県の松元崇博さんという好人物と知り合えたという僥倖はあり、それについては大変嬉しく思っている不肖わたくしだ。しかし「中古車購入」という作業それ自体は、まったくいつもどおりのルーティンでしかなかった。伊達心眼流選術を駆使し、そしてそれがひとたびワークし始めれば、もう結果は見えているのである。

 

とはいえ、中古の機械としてはほとんど文句のない96年式マツダ(ユーノス)ロードスターではあるが、主にビジュアルと雰囲気の面で、わたしなりにいろいろと手を加えたい部分は多い。次回はそのあたりについてご報告申し上げたい。