輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

NBじゃダメなんでしょうか?(←蓮舫風)

 

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いろいろと思うところあって、NAこと初代マツダ(ユーノス)ロードスター NA8C シリーズ2を購入した。「なぜ、今あえてNAなのか」という点については前回ご説明申し上げたが、一部の人はスティルこうも思うだろう。

 

「なるほど。しかしNB(2代目ロードスター)じゃダメなのか?」と。

 

確かにさまざまな点で、NAよりもNB のほうが無難なことは確かである。NAはもはや結構な予算を投じないとマトモな個体は買えないが、NBであれば比較的安価な(60万円前後の)車両価格でも割とイイ感じの個体が探せる。また信頼性や快適性なども、NBのほうが断然上であることは間違いないだろう。

 

とはいえわたくしは、ハッキリいってNBロードスターは眼中になかった。

 

なぜならば――NBを愛好している方には本当に申し訳ないのだが――わたくしから見るとNBロードスターとは「微妙な二世議員」でしかないからだ。

 

 

 

「偉大なる先代」の地盤とカンバンを継いだ二世議員候補、NB君。なるほど確かに直系だけあって、男っぷりは少々劣るが、それでも偉大なオヤジの面影は濃厚だ。人柄も決して悪くなく、アタマだって切れる。

 

「でも何かが……次の選挙で勝つためには、何かが決定的に足りねえんだよなぁ」

 

そう頭を抱えるのは、先代を長年支えてきた地元後援会長・後藤重徳氏(仮名)だ。

 

後藤氏が「何か」と呼ぶもの。それはおそらく「カリスマ性」なのだろう。あるいは「狂気」と呼んでもいいのかもしれない。

 

先代はハッキリ言って狂っていた。

 

あるとき突然「今こそライトウェイトFRオープン2シーターを!」という謎の公約を掲げ、長らく地上に途絶えていたそれの復古活動を、連合王国(United Kingdom)やプロイセンなどから見れば地の果てである東洋の地で(しかも広島で)、おっぱじめた。

 

実際の開発現場を見ていたわけでもないのに推測でテキトーなことを言うが、おそらくは周囲からの嘲笑もあっただろう。挫折もあっただろう。そして自らが自らを疑う局面もあったはずだ。「……できんのか、オレに本当に?」と。

 

しかし偉大な先代はやりきった。広島産ライトウェイトFRオープン2シーターは、北米を皮切りに日本、そして世界を席巻した。連合王国やプロイセンの者らも、先代に頭を垂れた。

 

「Oh、コレマデ黄色イ猿トカ広島ノカッペトカイッテ、スミマセンデシタ!」

 

そして彼らも長らく消滅していた市場に、先代の偉業を称えるかのような、あるいはパクったかのような軽量オープンスポーツ各モデルを投入しはじめた。

 

これらすべて先代の、良く言えば情熱、あえて悪く言えば狂気が引き起こした世界的ムーブメントである。一言でいえば先代は、政治家というよりは「革命家」だったのだ。

 

さて、そんな偉大な革命家を父とする息子のNB君。……もうおわかりかと思うが、父が偉大すぎる場合、その息子というのは残念ながら「フツーに優秀」ぐらいではまったく評価されないのだ。普通程度に秀でているだけでは、人は「ああ、悪くないですね(でも親父はもっとすごかったよなぁ)」と遠い目をするのみである。もっとこうドラスティックな、下手をすれば父を全否定するぐらいの何かをしない限り、ただただ時間の無明のなかへと消えていく。酷な話だが、世の中とはそういうものだ。

 

そして先代の死(製造中止)から約19年。今さらこのタイミングで「ああ、悪くないですね」という2代目(NB)を引っ張りだしたところで、周囲の人に何のインパクトを与えることができるだろうか? いや、周囲の人ウンヌンではなく「わたくし自身の人生」に、何のインパクトがあるだろうか?

 

申し訳ないがナッシングである。

 

これは、NBロードスターという車が機械として優れているとかいないとか、そういう話ではなく、「わたしは通常、このような思考過程を経て自家用車を選ぶ」ということを表明しているだけだ。「“狂気”が感じられない車を買うぐらいならオラ歩く! 電車乗る!」という話である。東京23区民だもの。

 

そしてわたしは偉大な男の長男であるNBをスルーしたあと、NCという「次男坊」も政界に打って出るという話を聞いた。NC君か……。彼ならきっと大丈夫だろう。カリスマ性はあまりないが、その分ソツもない。それなりの票を獲得して当選し、そしてそれなりの働きをしてくれるはずだ。ただ、狂気を求めるわたしの人生にはあまり関係がない。

 

ただ、三男坊のND君は凄い。モノが違う。あの若造からは先代と同じ「狂気」のようなものを感じるのだ。さしずめリアルな政界で言うところの小泉進次郎みたいな存在だろうか。進次郎が成長したことで、父・小泉純一郎は心置きなく引退できたのだろう。

 

そしてマツダ ロードスター家においても、わたくしが思うに「NDという小泉進次郎」が生まれたことで、偉大なる親父こと初代NAロードスターは初めて成仏できた。成仏すなわち「仏になった」ということで、つまりは今後NAロードスターは浮世とは別次元の純クラシックカーとして、永遠の生を行きてゆくのだ。

 

それが、「なぜ今NAなのか?」という問いに対する根本的な答えである。

 

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さて、3回にわたり愚にもつかない観念的な話をツラツラと述べてきたが、いよいよ次回以降、NA8Cという「仏様」は今どのような状態で、そしてそれを(畏れ多くも)どのようにブラッシュアップしていくのか、具体論を述べていきたい。