輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

フィットハイブリッドは「デラックス」だった

※2013年9月30日執筆

 

 

アイフォーンのようなクルマ。わたしはその登場をひたすら待ち望んでいる。それはすなわち「小さくて、さほど高価ではなく、しかしひたすら高機能でかつウルトラ美しく、そしてレボリューショナルな、今までに見たことがないもの」というクルマである。


その意味で、わたしは新型フィット・ハイブリッドに大いに期待していた。ハイブリッドという、もはや結構一般的になったシステムを用いているため「レボリューショナルな」という条件からは外れてしまうが、その外観を見たときに「これは“準・アイフォーンのようなクルマ”にはなり得る逸材かもしれない!」と直観したのだ。

しかし期待は裏切られた。新型フィット・ハイブリッドは、決して「準・アイフォーンのようなクルマ」ではなかった。

いやもちろん、悪いクルマではない。ていうかむしろ非常にいいクルマだ。天下のホンダが威信をかけて開発した旗艦コンパクトなのだから、悪いはずがないじゃないか。ビャーッと走ってビュビュッと曲がり、バーッと止まる、最高のクルマだ。……いちおう自動車ジャーナリストとして、このインプレも我ながらどうかと思うが、ここは本稿のメインどころではないため、まぁ気にしないでいただきたい。

フィットハイブリッドの何がいけないのか。それは、「相変わらず貧乏くさい」ということだ。

貧乏であること自体はさほど問題ではない。いけないのは「貧乏くさい」ことである。


新型フィット・ハイブリッドの貧乏くささの源泉はその内装にある。車両価格ざっくり180万円ということは、内装の素材等にアウディやらメルセデスなどと同様の高級品を使うことはできない。どうしたって、安い素材で内装全体を作らざるを得ないのだ。

となれば、本当は安い素材であることを逆手にとって「カジュアルな、でもとっても居心地の良い飲食店」のような内装を作るべきだった。あなたのご自宅近所にも、きっとそんな飲食店があるはずだ。安手の内装素材でざっくりと店内を仕上げているのだが、変にお高く見せようとしていないことから、かえっておしゃれに感じられる飲食店。

新型フィット・ハイブリッドはそれをやるべきだったのだが、彼らは四畳半にシャンデリアを持ちこんでしまった。四畳半を、ちょっとでもゴージャスに見せるために。

ヨーロピアン・アンティークのシャンデリアを四畳半に持ち込むのも当然滑稽だが、ホンダが新型フィット・ハイブリッドに備え付けたシャンデリアはしかも、アイリスオーヤマ製なのだ。いやアイリスオーヤマがシャンデリアを作ってるのかどうか調べてないので知らないが、比喩として、そうなのだ。

新型フィット・ハイブリッドの車内は、それに加えて「オートバックスで売ってるアクセサリー」や「ニトリのダイニングテーブル」等々、“残念なモノ”のオンパレードだ。そんなものをわざわざ置かずに、鉄板むき出しのシンプルな空間にでもしていれば、流行りの立ち飲みビストロのように洒落た雰囲気になったのだが。

わたしが新型フィット・ハイブリッドの車内を覗いて最初に浮かんだ単語は「デラックス」であった。昭和40年代は庶民にとって重要な概念であった「デラックス」だが、今の若い人にデラックスと言っても、下手をすれば意味も雰囲気も伝わらないだろう。意味を知っている若者は、笑うだろう。

しかし新型フィット・ハイブリッドは平成25年の今、大変に「デラックス」であった。ボディデザインと走りが非常に素晴らしいだけに、わたしは残念でならない。