輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

デルタ vs. TOKYO六番勝負

※2012年7月3日

 

昔、福野礼一郎さんがクルマ雑誌でこんなことを言っていた。

 

「クルマの写真に背景なんて要らないんだよ。俺たちはクルマが見たいんだから、白ホリ(撮影スタジオ)にクルマ置いて、シンプルな白バックで、図鑑みたいな感じで撮影してくれるのがいちばんなんだよ」
カギカッコ内は正確な引用ではなく記憶に基づく「大意」だが、そのような内容だった。

巨匠・福野さんに楯突こうというわけではないが、不肖わたしはその意見に大反対である。

「白バックの中に単体としてのクルマがある」という状況は、雑誌やカタログの中だけで発生する、本当は異常なものである。クルマとは本来的に、まず道があり、それに伴ってそこに人間がいて、さらにそれに伴う街や暮らしがあるうえに、初めて存在できるものだ。それらすべてを取っ払って「クルマだけあれば、クルマだけを見れれば、それで良い」とする感覚は、(直立不動になって)間違いと言わざるを得ません! 敬礼!


敬礼!

ということで、94年式デルタHFインテグラーレ・エボルツィオーネⅡの「TOKYO六番勝負」である。撮影スタジオの無菌的な白ホリではなく、さまざまな「街」の中で、果たしてデルタとはどのように見えるものなのか? 古いクルマゆえみすぼらしく見えるのか、あるいは逆にイケてる感じに見えるのか? またその街でドライバーが感じるものとは? ……等々を知りたいと思ったのだ。誰がといえば、わたくしが。今日。……雨のため若干日本語が乱れているが。


●ROUND 1:デルタvs.表参道
かつて同潤会アパートがあった頃の表参道であれば、デルタHFという古びたデザインのクルマはベストマッチであっただろう。が、流行のやや無機質テイストな現代デザインを取り入れた「表参道ヒルズ」の前で、デルタはどうなのか? 結論から言えば、何の問題もなかった。最高であった。実際のわたしはカリスマ無職の名をほしいままにするひとりの一般中年に過ぎぬが、このビジュアルはもはや「久々のオフに表参道ヒルズに買い物に来た芸能人」である。よくわからないが東幹久か、元シブがき隊のふっくんあたりが降りてきそうだ。



●ROUD2:デルタvs.日本橋
超老舗の商人が集まる街・日本橋。その街に店を構える者らは商売人ゆえ一見、腰は低いが、そのくせ来る者は常に値踏みされているような、いくばくかの緊張を来訪者に強いる街である。そんな日本橋をある意味代表する「日本橋三越本店」前でのデルタである。いかがだろうか。約340年にわたる「老舗の暖簾」にまったく位負けしていないニュアンスを、写真からも感じ取っていただけると確信する。三越本店破れたり! ……いや別に三越破れたりとかそういう話ではないのだが、とにかくイイ感じのデルタである。最高である。



●ROUND3:デルタvs.皇居
これについては、あまり詳しく触れると憲兵隊に検挙され拷問を受ける可能性があるので、最小限の記述にとどめる。で、畏れ多くも陛下のお住まいを遠くに見る我がデルタの姿は、なかなかイケていた。どうでもいいが通りがかりのインド人観光客のおっさんもデルタをガン見していた。……皇居に向かって礼!



●ROUND4:デルタvs.銀座
日本のソドム、銀座である。ちなみに、カルティエを背景とするこれを撮影しているわたしの背後には、ティファニー銀座店がある。ソドム……。エニウェイ、事前の予想どおり、まったく負けていないデルタである。実際のわたしは(中略)一般中年に過ぎぬが、このビジュアルはもはや「久々の休暇で帰国した日本人セリエA選手」である。よくわからないが中田ヒデか、キングカズ様あたりが降りてきそうだ。



●ROUND5:デルタvs.新橋
「消費税率アップについてどう思いますか?」「毎月のおこづかい額は?」等々のTVインタビューが常に行われる街、新橋。要するに働く者らの街である。そこでのデルタが下写真である。何の問題もなく新橋にフィットしている。考えてみれば当たり前の話で、元々はウルトラ華のない実用5ドアハッチバックとして誕生し、その後はWRCという「仕事場」で、黙々と業務をこなしていたデルタである。働く者らの街にフィットしないはずがないのだ。



●FINAL ROUOND:デルタvs.スーパーオートバックス
全勝ペースでここまできたデルタだが、最後に強力な「敵」が現れた。スーパーオートバックス東雲店である。いや別にSA東雲店に話を限定する必要はなく、要するに「カー用品店全般」こそが、デルタにとっては恐ろしい敵なのである。銀座であろうが陛下のお住まいであろうが位負けすることのない、ある意味高貴な存在であるはずのデルタも、カー用品店の駐車場に止めた途端「非モテ系クルマオタクの改造車」的な、ダサく強烈なオーラを放ってしまうのだ。まことに遺憾である。遺憾だがしかし、カー用品店の非モテ系オーラは強力だ。かく言うわたしもSA東雲店にデルタを止めた瞬間に気絶し、ハッと気がついたときには大量のクルマ用芳香剤や悪趣味なステッカー、後付けLED、車内用ごみ箱(かわいいプリント入り)などを買い込んでおり、あわててレジにて返品した次第だ。



●CONCLUSION
結論としては以下のようになるだろう。まだド住宅街や中途半端な郊外での勝負は行っていないが、いわゆる一つの「しゃれてる街」においては、デルタHFインテグラーレが負けることはありえない。が、デルタが本来的に持つ「汗臭さ、油っこさ」が、カー用品店に代表される「オタクっぽさ」と邂逅してしまったとき、強烈なるダサオーラが、ケミストリーにより発生する。そこをいかに避けるかが、今後の課題であるだろう。カー用品が必要なときは別のクルマか、あるいは徒歩/自転車で出向くのが必勝法なのかもしれない。