輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

霞が関をプロデュース

※2012年2月15日執筆

 

所用で霞が関界隈を中古SLKでちゃあちゃあ走っていると、霞が関2丁目交差点すぐそばの経済産業省敷地内に、なんつーかこう梁山泊臭ただようテントを目視した。はて面妖な……と思いつつも、自分はホンカツ先生直伝(←図書館で著書を読んだだけ)のジャーナリスト魂を発揮し、そのテントに乗り込み質問をした。この天幕の趣旨と目的やいかに? と。


自分の相手をしてくれた40代とおぼしき男性関係者が答えたところによると、主に反原発および脱原発を人々に訴えるため国有地の一部を占拠(OCCUPY)し、そして「OCCUPY!霞が関」なるカンバンを掲げ、デモる/座り込む/カフェーの商品を通じて自らの考えをアッピールする、などしているらしい。

原子力発電というのは何かと微妙な問題であるし、自分はそれについて大した知識も見識も持たぬ。しかし「人々らが全員イイ感じで暮らしていけたらええのんやけどなぁ」と日々いんちきな関西言葉で思っている身としては、反原発および脱原発をアッピールすることは決して100%間違ったアクションではないと考えている。つまり、「OCCUPY!霞が関」の皆さんがやっていることの根本について、批判するつもりは一切ない。

問題と感じたのは、「見せ方」だ。

先に記したとおり自分は原発についての是非をここで論じるつもりも資格もない。が、この面妖きわまりない昭和風味のテント、昔なつかしい「タテカン」っぽい書体、そのコピー(文面)の失礼ながら芸のなさ、そこにいる者らのたたずまい。……大変失礼ながら申し上げると、それらはどうにもチャーミングでなく、その思想や原発の是非以前の問題として「左翼(笑)がなんかやってるな」というような軽い印象しか、通りかかる者らに与えぬのと思うのだ。

いや、もしかしたら「こんなんが反原発なら、俺は逆に原発LOVEに走るね!」というような者を生む可能性すらある。

「佐藤可士和先生によるトータルディレクションが必要だ」

自分の頭にまず浮かんだのはそういった想念であったが、実際問題として、可士和先生に依頼するのはなかなか難しいだろう。ということで、今、念校待ちのためボーッとしている自分が、僭越ながらプロデュース案を考えてみたいと思う。可士和先生とは比べものにならぬだろうが、参考にしていただけたなら幸いだ。

まず根本的に手をつけるべきは、「どっちに進むか」を決めることであるだろう。原発か反原発か、ではもちろんない。「おしゃれ路線か、非おしゃれ路線か?」という話である。

おしゃれ路線でアッピールするならば、霞が関の天幕は思想的な拠りどころとして残しながら、裏原宿にもアンテナショップというかアンテナテントを開設しなければいけない。そのデザインは北欧モダーンを基調としながら、ところどころにA BATHING APEなどのテイストをパクって取り入れればよいだろう。坂本龍一先生などを呼ぶ音楽イベントとのシナジーも期待したいところだ。本拠地である霞が関テントは、可士和先生のパクリっぽいシンプルモダーンなテイストに天幕およびカンバン類をすべて改装。ヒマなモデル嬢数名を雇用して道行く者らに上質なエスプレッソ等をふるまいながら、明日の日本について皆で考えたいところだ。

しかし、おしゃれ路線の問題は「何かと金がかかる」ということだろう。裏原宿の賃貸料も馬鹿にならぬし、経産省の敷地はともかく裏原宿の私有地をダータでOCCUPYしてしまっては、人々のシンパシーを得ることも難しい。

そこで不肖わたしがオススメしたいのが、「非おしゃれ路線」によるアッピールだ。「現状すでに非おしゃれじゃないか!」という意見もあろうが、それはわたしに言わせればド素人である。もっともっと、非おしゃれに徹する必要がある。そこまでやって初めて、人々にアッピールする何かが生まれるのだ。

まず現状のテントでは中途半端である。泥を付ける、わざとカギ裂きを作るなどして、もっとボロい感じに仕上げたい。『OCCUPY!霞が関』という看板は、ネームも書体も中途半端でダメだ。もっとこう『打倒霞が関! 反原発天誅テント』ぐらいの勢いがほしい。フォントはもちろん60年代立て看板のアレである。スタッフのコスチュームは、清志郎先生の「ザ・タイマーズ」をパクる方向でいく。白いアコースティックギターなどもあったほうがいいだろう。皆で輪になって反戦歌を唄おうじゃないか。

しかし伝統的なシュプレヒコールは一切禁止とする。「○×は、△□せよー!」「せよー!」「せよー!」というアレは、絶対禁止。あれこそが、「はっ、左翼(笑)がなんかやってるよ」と軽くあしらわれる要因の一つである。無論、シュプレヒコールの類は運動の性質上必要であろうから、モダーンな形にモディファイしたうえで行わねばならない。そのときに参考になるのが、鴻上尚史先生が以前どこかで書いていた内容である。

先生も伝統的なシュプレヒコールが嫌いなようで、「帰れコール」ってあるじゃないすか? マイクを使って発言している者に対して皆が「帰れっ! 帰れっ! 帰れっ! 帰れっ!」とか囃し立てるやつ。あれはあまりにも古くさくてアタマも悪そうで好きじゃない、と。どうせなら「帰れ! 帰れば! 帰るとき!」とかやれば面白いし、面白いものにはアッピール力があるのに、というような内容だった。今回の非おしゃれ系シュプレヒコールはこの鴻上先生案を少々パクり、3段活用的に「経産省はぁ、○×をせよー!」「左様!」「おはよう!」などとするのが良いと愚考する。……すまぬ、あまり面白くなかった。

エニウェイ。今回の案件に限った話ではないが、おしゃれ路線でも非おしゃれ路線でも、どちらでも構わないと自分は思う。いけないのは「中途半端であること」と、「過去のスタイルを疑うことなく安易に踏襲すること」なのだ。

言い換えるならば、「自己満足」ではなく「人に伝える」ということをもしも真剣に考えたならば、そういった半端や安易な踏襲など、本来は行われるはずのないことなのだ。「OCCUPY!霞が関」の皆さんにはそのあたり、「伝える」「効かせる」ということの技術について、このエントリを参考に考えていただけたなら幸いだ。なに、お代は結構ですよ。