輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

GTV vs. 新車連合、大磯の戦い

※2012年2月1日執筆

 

「別に新車に恨みはないが、わたしのような庶民はステキな輸入中古車があればそれでOK。積極的に新車を買う必要など特にはない」

不肖伊達が常々言っているコレは、何もテキトーに言っているわけではなく、自分なりの確信に基づいている。がしかし「100%の確信」というのは人間なかなか持ちづらいもので、もしもエニタイム・エニウェア100%の確信と自信に満ちている者がいたとしたら、その者はよほどの偉人か、もしくは順当に考えて狂人である。

自分の意見は本当に正しいのか否か? そのあたりを精査する機会がやってきた。輸入新車の主要モデルが一堂に集まり、各メディアや評論家らがそれに試乗するという、いわゆる「JAIA試乗会」である。

自分は今年のJAIA試乗会にて輸入中古車界を(勝手に)代表して、きらぼしの如き輸入新車連合に勝負を挑んだ。「輸入中古車の魅力は、輸入新車のそれに大きく劣るものではない」という自説の正しさを証明せんがためだ。勝負の作法は以下のとおりである。

1. 輸入新車各モデルにとりあえず試乗する
2. その印象と自分の99年式アルファGTVの印象とを脳内で戦わせ、「自分は正直、どちらを所有したいと思うか?」と、己の心に虚心坦懐に問うてみる
3. その妄想をする際、自分を含む「一般的な収入の人」のバジェット感で考える
4.「やっぱGTVだな」と素直に思えればわたしの勝ち。「微妙だ……」と感じたなら引き分け。「中古GTVよか全然イイじゃん!」とシャッポを脱いだならわたしの負け
5.「引き分け」は仕方ないとして、もしも「負け」が1戦でもあれば腹を切る。すなわち輸入中古車研究家稼業を廃業する

ということで「負けたら引退スペシャル」な大磯の戦い、さっそく始めよう。

 

●第1試合:vs.アルファMiToコンペティツィオーネ

いきなりの同門対決である。敵さんは新鋭機、こちらは13年落ちの旧式機ということで苦戦も予想されたが、結論からいうと楽勝であった。
無論、MiToコンペティツィオーネはなかなか痛快なクルマである。しかしその「痛快」は自動車を「水平」に見たとき、すなわち現在売られている新車だけで考えたときの話だ。過去販売された中古車を含む「垂直」の視点で見れば、その痛快さは比較的凡庸と言わざるを得ない。「ステキなコンパクトカー」が欲しい者には大いにお勧めのMiToだが、「痛快なクルマ」が欲しい者にわたしが勧めるのは、ド中古のGTVだ。
・勝敗=☆(GTVの勝ち)


●第2試合:vs.ボルボV70 DRIVe

1.6L直噴+ターボという当世流のパワーユニットを積むグレードである。すばらしいステーションワゴンであった。V70よりも小ぶりなV60のDRIVeはかなり敏捷で運転する歓びにあふれたクルマだが、なんというか、ワゴンであそこまで敏捷なのも少々どうかと思う。ワゴンという名の彼岸に行ったはずなのに、まだ現世に未練タラタラというか。そういった意味でV70 DRIVeは、あくまでも彼岸的な落ち着きを基本としながらも、当世流の活発さもほどよく備えている。さすがはワゴン作りに長けたボルボ、敵ながらあっぱれである。
・勝敗=△(引き分け)

 

●第3試合:vs. BMW120i Sport

これまた1.6L直噴+ターボの当世流。120iは170psの高出力バージョンで、Sportはちょいお高めのスポーティ装備を備えるグレードだ。現行1erは「初代よりカッコよくなった!」と言われるが、自分としては「どっちもまぁまぁカッコいい」ような気も、「どっちもどっち……」な気もする。エニウェイ、その走りはさすがにBMWの新鋭機種。イイもの感満点のシャシーに緻密な回転フィールのエンジンで、もはや「3erの子分」ではなく「3er何するものぞ!」の風格すらある。ステキなコンパクトFRハッチであることは間違いない。
が、この「ウルトラ精密・緻密な感じ」を好むかどうかはまた別問題だ。自分はこういう類のクルマは息苦しくて仕方ない。しかし無論、「精密マジメ系」を好む者には最良に近い選択だろう。
・勝敗=△(引き分け)


●第4試合:vs. BMW535i xDriveツーリング

「890万円のクルマなどわたしは買えない」という問題を脇に置き、仮に自分がお金持ちだったとしても、買わぬだろう。こんなすばらし過ぎる魔法の絨毯のごとき物に毎日乗っていたら、堕落してしまうではないか。無論、「現場」で最善のパワーと実力を発揮すべきプロ野球選手やIT社長などが、スタジアムや取引先まで最速・最安楽・最安全に行くためには最高のクルマだろう。
・勝敗=☆(GTVの勝ち)


●第5試合:vs.シトロエンC3

写真手前の水色のコンパクトカーが、2010年5月に登場した2代目の「シトロエンC3」。最高出力120psのなんてこたぁない直4を積むエントリーモデルだが、実に強敵であった。
なんてこたぁないのだが、のんびり走ればいかにもシトロエンな、ソフトな中に何らかの芯があるような?ないような? といったあの独特の乗り味を堪能でき、しかし130km/hほど出してみれば(←違反です)凡百の日本製コンパクトとは次元の違う安定感を見せる。そしてご覧のとおりウルトラ洒落た外装デザインおよびボディ色。……これはもう「現代の2CV」である! ある意味! ハッキリ言って自分はC3が強烈に欲しくなった。
ということは自分の負け→廃業なわけだが、しかしインパネ周辺のデザインをあらためて見たとき、自分のC3購入意欲は少々減退した。なんつーかこう、シトロエンとしてはデザインが安直というか、安っぽいのだ。とっても素晴らしいクルマだが、そこだけが実に惜しい。
・勝敗=△(引き分け)

 

●第6試合:vs.シトロンDS3 Sport Chic
上写真奥側の黄色いクルマがDS3、エンジンは例の当世流である。その中でも「スポーツシック」は6速MTを採用したグレードだ。C3が「ホンワカした中に芯がある」タイプだとすれば、DS3はその「芯」がより前面に出ている(シトロエンとしては)硬質な乗り味が特徴だ。なかなかに素晴らしいコンパクトカーである。内外装ともウルトラおしゃれだし。
しかしド中古GTVはまたもや勝利した。敵さんの敗因は「MTであったこと」である。自分は自動車変態としてもちろんATよりもMTを好むが、よりダイレクトにエンジンの味わいが伝わるMTだと、DS3のもっさりしたエンジンは少々ツライ。や、別にツラくはないが、「これならGTVのV6とか156のTSのほうが……」と思ってしまう、というか解ってしまうのである。敵さんが普通のAT仕様だったら負けていたか、少なくとも引き分けであっただろう。
・勝敗=☆(GTVの勝ち)


●第7試合:vs. MINI Cooper S クロスオーバー

ある意味非常に宗教的なクルマだ。「ミニ教」の信者にはその価値やご利益が見えるのだろうが、部外者にはよくわからない。
・勝敗=☆(GTVの勝ち)


●第8試合:MINI Cooper S クーペ

MINIシリーズの量産モデルとしては初の2シータークーペ。基本グレードは1.6L自然吸気の「クーパー」と、今回の試乗車両である1.6L+ターボの「クーパーS」。ほかに「JCW」もある。
さて、このスタイリングはウルトラすばらしいと思うが、スタイルに対してエンジンが負けている感がある。例えばDS3のオートマ仕様に同じエンジンが積まれていても「もっさり感」はほとんど感じないが、このエッジの利いたデザインと合わさると、急にそのフィールの凡庸さが気になりはじめるのだ。
この当世流エンジンではなくハイブリッドか、あるいは電気モーター式であったなら、アルファGTVのボロ負けであっただろう。 ていうかこれのEV、欲しいな。
・勝敗=☆(GTVの勝ち)

 

●第9試合:vs. VWポロTSIハイライン

大変な強敵であった。普通に考えてド中古アルファGTVに勝ち目はまったくない。肥大化したゴルフと違って適度なサイズ。1.2リッターTSIや7速DSGの超優等生ぶり(優等生といっても面白みがないという意味では決してない)。3クラスぐらい上のクルマをイメージさせる強靭なフロア。良好な燃費。273万円という、わたしでも買えそうな価格。このクルマを新車で買ってず~っと乗るのが、賢くも手堅い人生なのだろう。問題は、わたしは「賢く手堅い人生=良い人生」とは思わぬことだ。そこだけを頼りに、なんとか勝負を引き分けに持ち込んだ。ほとんど上田馬之助ばりの反則攻撃だが……。
自動車変態、というか人生変態である自分のような者以外の、すべての者にとっての推奨銘柄。
・勝敗=△(引き分け)

 

●第10試合:vs.フィアット500ツインエア

ステキなクルマだとは思うが、中古GTVの敵ではない。ツインエアの一番良い部分は、中回転域における独特の躍動感というか「生物感」みたいなものであると愚考する。燃費のことを無視して言いますが。半面、アイドリングに近い回転数や高回転域では、バタバタというアレが、躍動感というよりは「鬱陶しいもの」に自分には感じられるのだ。燃費のことは完全に無視して言ってますが。
・勝敗=☆(GTVの勝ち)

 

●第11試合:vs.アルファロメオ・ジュリエッタ・コンペティツィオーネ

同門の最新鋭機種。「現代美術館のように美しい内外装!」「痛快極まりない走り!」などと喧伝されているため、自分は「完敗→切腹」を覚悟しつつ試乗した。が、敵は大したことはなかった。内外装デザインも質感も、そして走るうえでの歓びも、巷間言われているほどではない。信じられないかもしれないが、本当の話だ。
無論、ステキで美しく、かつ扱いやすいイタリアン・ハッチバックであることは間違いなく、日本でもどんどん売れてほしい存在ではある。自分はジュリエッタを応援する。ただ、我がGTVの価値を明らかに脅かす存在ではない、ということだ。ビリーヴ・ミー。
・勝敗=☆(GTVの勝ち)


●ファイナルマッチ:vs. VWゴルフカブリオレ

最大の強敵と思われたジュリエッタを撃破したことで「ハッ、世の中甘いぜ」と思った自分だが、最後に強烈な一撃を食らってしまった。ゴルフカブリオの最新世代である。
何なんだこのクルマは。新世代ワーゲン車の各種スタビリティや作りが素晴らしい点については今さら指摘するまでもないが、1.4リッターのTSIって、ジュリエッタとミトが束になってかかっても太刀打ちできない、こんな「気持ちよさ」も備えてたっけ? オープンだからそう感じるのかな? いや、それだけとも思えぬ快楽じみたものが、ここにある。……ドイツ車のくせになかなかやるじゃないか。なんというか、「ちょっと揉んでやるよ(笑)」と優等生をイジメに行った軟派な不良が、あっけなく返り討ちにあったような。自分は今、そんなみじめな気持ちである。
これはいよいよ切腹か? と思ったが、考えてみれば、そんな出来過ぎた優等生はキライである。だから、欲しいとは思わない! ……と無理やり自分を納得させた。
・勝敗=△(引き分け)


●総評:
以上、きらめく新車軍団を向こうに回して計12戦した中古アルファGTVだが、その戦績は「7勝0敗5分け」であった。「5分けのうち2戦はほとんど反則じゃないか!」と、そんな指摘もあろうかとは思う。そして自分も、それを自覚している。


しかし考えてもみてほしい。プロレスだって「ある程度の実力」がないことには反則攻撃での勝利すらできないのである。故・上田馬之助さんだからこそ反則攻撃が成り立ったわけで、ペーペーの選手ではそうはいかなかったはずだ。


それと同様に、多少うさんくさい手も使ったが、輸入中古車というか中古GTVにそもそもの実力があるからこそ、少なくとも勝負が成立したことをご理解いただきたい。

ということでもしもご理解いただけたなら、最後に自分と一緒にご唱和願います。
では行きます。1、2、3、ハイ!

「あ~、輸入中古車はやっぱりスバラシイなぁ!」

……長らくのご清聴ありがとうございました。