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中古車ジャーナリストの雑文一式。

脱スーパードライ的世界

※2011年12月28日執筆

 

本年5月の開設以来、皆様のおかげで地味にPVを増やし続けている拙サイトではあるが、あくまで「地味に」であって、開設当初の目論見であった「あっという間に月間100万PV!」「書籍化され500万部突破!」「1450円×10%×500万部=印税7億2500万円!」「大金持ちになって女子アナと熱愛報道!」という計画は、この年の瀬にあっても一向に達成される気配がない。

 

そこで来る2012年は目標を一気に下げ、「アフィリエイトとGoogle AdSenseで月2万円必達!」を合言葉に、死ぬ気で邁進する所存である。過去8カ月間の皆さまのご愛顧に感謝を申し上げるとともに、小商いサイトとして再出発する来年の伊達軍曹.comをどうぞよろしくお願い申し上げたい。

 

それはさておき、アサヒスーパードライのテレビCMである。あれは、いつまで「カッコいい」を追い続けるのだろうか。


現在放映中の福山雅治氏を起用したバージョンはちょっと趣が異なるが、スーパードライのテレビCMといえば、基本線は以下のとおりである。

1 夢をもって「挑戦」を続ける、一人の日本人男性
2 その日本人男性が欧米白人たちを向こうに回し、よくわからぬがプレゼンのようなものをしている
3 「オゥ! スバラシイデス! マケマシタ!」とでも言っているのだろうか、欧米白人が男性に対しスタンディングオベーションをしている
4 「世界(=白人)」と肩を並べた、いやむしろ勝利した日本人男性。白人たちと胸襟を開いてスーパードライで乾杯。夢と挑戦は見事成就した

……このCMシリーズの問題点は、大まかに言って以下の2点である。

A 今さら欧米を「上」に見るという時代錯誤
B 「カッコいいこと」がカッコいいという、古くさいセンス

上記Aについてはここでは(面倒くさいので)触れぬが、Bについて自分は大いに触れたく、そして説明も必要だろう。

 

今、「カッコいいこと」はさしてカッコよくないのだ。というか、それは今むしろカッコ悪くすらある。

 

『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』と早川義夫が唄ったのは42年前のことだが、その後時代はようやく早川に追い付き、今や「カッコいいこと」すなわちスーパードライのCM的世界観や蟇目良(ひきめ・りょう)的な超二枚目は、残念なことに失笑の対象でしかない。その代わりに憧憬の対象となっているのが、卑近な例で言えばお笑い芸人や、ギャクセンスのある大衆歌手および俳優などである。

 

消費社会としてウルトラ成熟してしまい、そして人々がスレてしまった本邦においては、カッコいいものはもはやギャグしかならず、逆に「あえてのカッコ悪さ」こそがスーペリアーなのである。簡単に言えば、「スカせばスカすほどカッコ悪い時代」ということだ。

 

無論、このことは今さら自分風情が指摘するまでもなく、広告等を制作する者ならすべてわかっている。それが証拠にテレビCMだろうがポスターだろうが、予算と労力が注ぎ込まれている大手のクリエイティブほど「笑い」の要素が多いことに、誰もが気づくだろう。例えば下写真、トステムなる大企業の防音・断熱内窓『インプラス』の広告ポスターである。


二枚目俳優である堤真一が、無表情な顔で汗をダラダラ流したり凍りついたり、耳をふさいだりしている、ある種マヌケな姿のポスターである。しかしその「マヌケ」こそが今は美しく、そして人心を捉えるのだ。

このポスターをスーパードライ風に作ってしまうと、おそらくは以下のようになるだろう。

1 防音・断熱内窓に関する「挑戦」を続ける堤真一
2 何度も挫折しながら、しかし革命的アイデアを思いついた堤。白人経営陣に対し華麗なプレゼンを行う
3 「オゥ! スバラシイデス! サイヨウデス!」とでも言っているのだろうか、白人系経営陣が堤に対しスタンディングオベーションをしている
4 「世界(=白人)」と肩を並べた、いやむしろ勝利した堤。白人経営者と、断熱内窓『インプラス』で乾杯。夢と挑戦は見事成就した

……最後の「断熱内窓で乾杯!」というのが我ながらよくわからぬが、いずれにせよ、お茶の間のいる者らの心には何一つ残らない駄CM、広告宣伝費の無駄遣いとしかいいようのない作品になることだけは確実である。

 

しかしわたしは広告関連については比較的安心して、心すこやかに眺めている。なぜならば、前述のとおりほぼすべての大手クライアントは今や「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」の精神を理解しており、理解していないのはアサヒスーパードライとインスタントコーヒー『PRSIDENT』だけだからだ。PRESIDENTのカッコ良すぎるCMを今もやっているのかどうか知らぬが。

翻って、自動車業界である。こんなことは今さら指摘するまでもないが、モータリゼーションが進んだ時代にカッコ良いとされていたこと、すなわち「最高速チャレンジ」「峠最速」「ドリフトデナイノ!」みたいな要素は、もはや(一部の中年男性を除いては)誰に対しても訴求力をもたない。

代わりに訴求力をもつのが、ご承知のとおり「燃費」「環境」「居住性」である。そういった要素を自分は否定するものではないし、それらを真剣に求める者らが多数いることも理解しているつもりだ。

しかし同時に、大トヨタが言うとおり「FUN TO DRIVE AGAIN!」とも思うのが、自動車愛好家の性である。そして、そんな愛好家的性向を刺激してくれる何らかのニューマシンが登場することも、大いに期待している。それが、フェラーリ的なスーペリアー過ぎる何かではなく、ちょっと頑張れば誰もが買える何かであれば、言うことはない。

でも、それは「86」ではないはずなのだ。いや別に86単体のことを言っているわけではなく、「86的なるもの」というこいとだが。自分は先の東京モーターショーで豊田章男社長の演説にいたく感動し、章男社長の心の臣下となることを決めたわけだが、臣下だからこそ申し上げたい。アレでは、蟇目良が今さら出てきたようなものではないか。スーパードライのCMではないか。

そうではなく、広告界の諸兄がスーパードライ的世界観から早くに脱却したように、自動車界も、ある種の「スーパードライ的世界観」から早く脱却していただきたいと、自分は強く願うものである。

無論、「燃費」「環境」「居住性」というのは、その脱却の一つの形なのだろうが、「FUN TO DRIVE AGAIN」の分野でそれをどう脱却させるのか。そこに自分は興味がある。興味をもつことしかできない無能な自分ではあるが、せめてそういった素晴らしい新機軸が見事発明された折には、その発売から数年後、中古車としてそれを購入させていただきたいとは思っている。

相変わらず長くなってしまった。長い割にはイマイチなような気もするが、忘年会に行かねばならぬので、ロクに読み返しもせずアップすることとする。来年もどうぞよろしくお願いいたします。