輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

SLK購入始末記・健康診断編

※2011年11月9日執筆

 

現物を1回も見ることなく購入した、98年式メルセデス・ベンツSLK230コンプレッサー73万円号(コミコミ94万円、走行5.3万km)。納車後の「走り込みテスト」では、ステアリングに断続的に発生する振動のほかは特に問題はないように思われた。が、それを思ったのは機械には素人の不肖伊達であり、そもそも「思った」だけで、何かが明確に「確認」されたわけではない。自分には見えぬところ、あるいは感知できぬ部分でモノスゴイ事態になっている可能性も、なくはない。

もしかしたら自分にとってツライ現実を突きつけられることになるやもしれぬが、それでも自分は男として、そして伊達心眼流撰術なるものを提唱する人間として、98年式SLKの真実を確認しなければいけない。……ということで向かった先が、埼玉県八潮市の『セントラルオート』。ちょっと古いメルセデスに乗る者の多くが知る腕利きファクトリーである。


11月7日(月)午後1時。緑と工場豊かな町・八潮で自分を迎えてくれたのは、株式会社セントラルオートの代表取締役にしてバリバリの現役メカニック、児玉善一郎氏。児玉氏および同社メカさんの2人がかりで、自分のSLKの「健康診断」をしてもらうのだ。健康診断の名は『マイカーチェックサービス』という。

『マイカーチェックサービス』とは、リフトアップしたユーザー車を40項目以上にわたり専門家がチェックし、カルテに相当する「チェックシート」を作成。そのシートに基づき、リフトに上がった車両の下でユーザーに実際の下回りなどを目で見てもらい、各部の現状を説明する。その後、メンテナンスの方向性や、予算と都合に合わせた修理時期、優先順序など、細かいプランをお客の立場に立って提案するというものだ。所要時間は1時間で、料金は1万290円。コンピュータチェック(DAS)も同時に行う場合は1万5750円となる。基本的にはメルセデスのみを対象だ。


さて、いきなり始まった『マイカーチェックサービス』。通常、ユーザーは「チェック」が終わった後にピットに呼び出され、愛車の現実を目視することになる。が、今回は取材ということで特別にチェック最中からピット内に同席させていただいた。

98年式SLKがリフトアップされる。このクルマの下回りを見るのはこれが初めてだ。ていうかこのクルマ自体、数日前に初めて見たのだが。記録簿によると、新車時から13年間ずっと北海道某市で使われていたクルマゆえ、融雪剤の影響による下回りのサビを自分は懸念していた。が、見たところサビが目立つ箇所はないように思われる。が、自分はシロート。自信はない。ということで恐るおそる児玉氏のほうを見やると、氏も「サビは全然大丈夫ですねー。キレイですねー!」とのこと。まずはひと安心である。


が、まだ先は長い。油断は禁物だ。話は若干前後するが、リフトアップする前にはごく簡単な走行テストを行い、そしてエンジンルーム細部のチェックを行う。そのエンジンルームチェックの際、それまでは「や~キレイなSLKですねー! 伊達さん、コレ極上じゃないですかぁ!」などと笑顔だった児玉氏が「ん!?」と言うとともに真顔になり、直4エンジンの奥のほうを覗きこんでいる。なにか重篤な欠陥が見つかったのだろうか? 修理代見積もりは100万円単位に達し、「伊達さん、これは直すより捨てたほうがいいですよ」とか言われるのだろうか?

ビビりながらも覚悟を決め、児玉氏に何が見つかったのかと尋ねると、「タペットカバーのパッキンから、ほんのちょっとオイルがにじんでますね~」とのこと。言われた場所を見てみると、本来はマットな黒のパッキンが、一部キラキラしている。それが、微妙なるオイル漏れの証左なのだという。100万円コースだろうか? 東京湾に捨てたほうがいいのだろうか?

「ま、このくらいなら全然問題ないですねー。中期的に見てもしも漏れが進行してきたら、その時点で直せば十分だと思いますよ。この箇所なら修理代も安いですし」

……切腹せずに済んだようだ。計14項目のエンジンルーム内点検は13項目で「異常なし」のお墨付きをもらう。よかった!

が、続いての「足回り点検」では、「あー、ブレーキパッドは大丈夫ですが、ローターは次回交換しないとダメですね。かなり段差が付いちゃってます」との指摘。現時点で大問題なわけではないが、近々要交換ということだ。このあたりは「格安中古車のアタリマエ」とも言える部分なので、想定の範囲内である。ていうか、格安店ではないのに終わりが近いローターのままで販売する中古車店も実は多い。すべてが完璧に近い中古メルセデスを買いたいのであれば、格安店ではなくJオートとかに行くべきなのである。高いけど、ほぼ完璧なはずだ。もしくは購入後に自分で直すつもりで格安車を買うか。押忍。


そして話は先ほどのリフトアップ後に戻る。前述のとおりサビはほぼ出ておらず、主要各部の状態も、専門家から見て「うん、なかなかイイじゃないですか!」というもののようだ。伊達心眼流の大勝利が近づいてきた。

が、やはりまた児玉さんの「ん!?」が。心臓に悪いのでやめていただきたいのだが、チェックをやめられても困るので、意を決して何があったかを尋ねる。

 

「伊達さん、『断続的に生じるステアリングの振動が気になる』って言ってたじゃないですか? その原因、たぶんコレですよ」

「フロントサスの〈ロアボールジョイント〉は新品に替えてあるんですが、〈ロアアームブッシュ〉は古いままで、それが切れてます。あと、フロント左右ハブにガタがありますね」

 

ロアアームブッシュをよ~く見てみると、確かにヒビっつーのか切れっつーのか自分にはよくわからぬが、そういったものが見える。

なるほど。これは想像だが、納車整備で交換済みの〈ロアボールジョイント〉は、整備前の時点で明確にブチ切れまくっていたのだろう。よって新品に交換した、と。だが〈ロアアームブッシュ〉のほうは、厳密に言えば要交換だが、厳密じゃない考え方を採用するならば「まだ大丈夫っちゃ大丈夫」とも言える状態。それゆえ、格安店としては敢えて交換しなかった、と。「だって、大丈夫っちゃ大丈夫なんだから!」と。その趣旨というか思考や志向はわかるつもりだし、中古車研究家として全然納得できる。不満はない。だが、そこにハブのガタも合わさっちゃってるのがツライところだ。う~む。

 

左写真は新品に交換済みのロアボールジョイント。切れているロアアームブッシュのほうは伊達の写真技術と機材ではうまく撮影できず。すまぬ。


ところで、ステアリングのジャダーが常に発生するのではなく、発生したりしなかったりと断続的だったのは、なぜ?


「ブッシュが切れちゃっている関係で、段差とかうねりを越えた際に、たまたまちょうどいい位置にアームが収まると振動は出ないわけです。で、次の段差やうねりでまたショックを受けた際、今度は具合の悪い位置にアームがズレたりする。それが、ジャダーが出たり出なかったりの原因でしょう」
なるほど~。

と、いう具合に『マイカーチェックサービス』は続き、最後にコンピュータチェックを行い約1時間で終了となった。結果はおおむね以下のとおりである。

【エンジンルーム内の点検】
●タペットカバー・パッキンからのオイルにじみあり
●他13項目はすべて異常なし

【足回り点検】
●ブレーキローターは次回交換
●フロントロアアームブッシュ切れあり
●左右ハブガタあり
●他9項目は異常なし

【下回り点検】
●デフオイルにじみ(所見:特に気にしないででOKでしょう)
●ATマウント要交換
●燃料ポンプ&フィルター古い!(所見:新車時から替えてない。初代SLKが路上で止まってしまう際のメジャー原因の一つなので、交換したほうがいい)
●他9項目は異常なし

【室内の点検】
●すべて異常なし

【その他】
●「エアマス」は交換したほうがより安心
●「クランクセンサー」は、燃料ポンプと同じく初代SLKの弱点の一つで、あるとき突然逝き、路上でエンコする。最初に替えておいたほうが絶対安心。
●左フロントインナーライナーが破損しており、走行中は左前輪とライナーが接触してしまっているはず。


以上の『マイカーチェック』に基づき、児玉さんのアドバイスと小生の考え方や予算をすり合わせた結果、以下のメンテナンスを早々に行うこととした。

【今後の作業内容】
1.ロアアームブッシュ交換(アームごとではなくブッシュのみの打ち替えで)
2.左右ハブガタ修理
3.上記1、2に伴う4輪アライメント調整
4.ATマウント交換
5.燃料ポンプ&フィルター交換
6.クランクセンサー交換
7.左フロントインナーライナー交換

工賃を含む費用は、得意のウルトラざっくり見積もりによると「20万円いくかいかないかぐらい」である。


さて、中古メルセデス整備のプロから見て、我が98年式SLK230コンプレッサーの状態は実際のところどうだったのだろうか? 修理費100万円コースではなかったし、東京湾に捨てたくなるような重篤な問題もなかった。とはいえ、いくつかの問題点はたしか存在した。率直に言ってイマイチでしたか、児玉さん?

「や、全然イイ中古車ですよ! 車両70万円台でこの状態なら御の字以上じゃないですか? 多くの方が中古メルセデスを買われた後でウチのマイカーチェックを受けにいらっしゃいますが、このSLKより全然高いのに、全然状態が良くない(笑)という中古車は山ほどありますから。それを考えると、このR170は『いい中古車』と評して間違いないでしょう」

昔から自分が大いに信頼を寄せているプロ中のプロが、「いい中古車です」と言うのだから、この時点で伊達心眼流の「敗北」は少なくともなくなった。切腹も回避できた。うれしい。

だがしかし、「ほぼほぼノープロブレム」ではなく「ややプロブレムも有り〼」だった今回の買い物を、輸入中古車研究家として私はどう評価すべきなのか? 秋川渓谷で滝に打たれ精神統一をしたうえで、次回エントリにて総括したい。押忍。