輸入中古車400勝

中古車ジャーナリストの雑文一式。

FIATムルティプラ問題

※2011年9月1日執筆

 

BMWと名のつくクルマに乗ると、一部の者はなぜ極悪非道な運転になってしまうのかという「BMW問題」について昨日論じたが、自分にはもう一つ解決しなければならぬ問題があることを思い出した。「FIATムルティプラ問題」である。


ムルティプラ問題について考えるきっかけとなったのは数年前、路上でたまたまお見かけした俳優の阿部サダヲさんだ。それが私物なのか借りモノだったのかは知らぬが、とにかくそのときの阿部さんは、わたしが運転するクルマのすぐ前をムルティプラの前期型にて結構な勢いで快走しておられた。阿部さんの名誉のため申し添えれば、それは決して下品なドライビングではなく、いかにもクルマ好き・運転好き・そして運転上手な男性の場合によく見られる「小気味よい快走」であった。

なるほどこのアグレッシブな走りも、(TVを通じてしか知らぬが)ご本人のキャラに合っている気がする。あぁ目出度しめでたしと思った自分ではあるが、その後「はて?」とも思った。

阿部サダヲさんが乗っていたクルマが何らかのスポーティカーであるか、あるいは同じフィアットでも軽量なパンダか何かであれば、このアグレッシブな走りにも合点がいく。しかしムルティプラである。言ってみれば鈍重なはずの荷物グルマである。それがあの挙動とは、あまりに不可思議。そのくらい、後方から見ていたムルティプラの走りっぷりはシャープだったのだ。

その後、不勉強にもほどがあるが、自分はムルティプラに試乗する機会を得ぬまま『輸入中古車研究家』稼業を開業してしまった。これではイカンと思った自分は昨日、横浜市の『エーゼットオート横浜』の門をたたき、03年式のムルティプラELX(118万円)にちょいと試乗させていただいた。


コマゴマとしたことは今の時代、ポチッと検索すればいくらでもわかるので省略しても構わないだろう。「ム、ル、ティ、プ、ラ」とキーボードを押せばwebCGやらcarviewやらの往時の新車試乗記が読めるが、走行6.5万kmの8年落ち中古ムルティプラに乗ってみた自分の印象は、それらとほぼ同じだ。デッカいハコであることや、1.6リッターのしょぼいエンジンであることがまったく信じられない。ムルティプラの走りとは、その一言に尽きる。

ポチッと調べたところ車重は1360kgあるとのことだが、自分としては1100kgぐらいのクルマにしか思えなかった。それを最高出力103psのエンジン+5MTで動かすわけだから、「感覚的なパワーウェイトレシオ」は、自分が大昔乗っていたルノー5バカラの5MTモデル(あれは確か最高出力73psで、車重850kgぐらいだったと記憶する)になんとなく近い。5バカラはスペック的には全然大したことのないクルマだったが、とにかく軽くて小さいので、下手なスポーティカー顔負けの走りを楽しめたものだ。

 

それと非常によく似た感覚を、このデカい図体で味わわせてしまうムルティプラとは、いったい何なのか? 自動車工学の本当の詳細はわからぬ自分ゆえ、そこを解説することはできないが、「とにかく、中古であってもムルティプラの走りってそうなの!」という要点のみをお伝えしたいと思う。

なるほど確かにムルティプラは凄かった。イタリア男とは、ピープルムーバーにさえもこのような走りの良さをついつい求めてしまう、愛すべき野郎どもなのかと、百の本を読むよりも確かに理解した中年フリーター・伊達の昼下がりであった。